2024/11/06 解決事例
牙城を崩す
債権回収の話です。
精神科の病院に長期入院している女性がいます。入院費が600万円近く未払となっていて、連帯保証人になっている夫は、地主で資産家だが、まったく支払ってくれない、こういう相談を病院から受けました。
病院によると、夫はずっと妻との離婚を希望しており、妻の親族がそれを危惧して、自宅から妻の生活費分として現金を持ち出したことで、夫が態度を硬化した経緯があるとのことでしたが、これは夫の説明なので、真偽は不明とのことでした。
民法の770条には、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないときは、離婚の裁判が出来ると書いてあります。
しかし、裁判実務では、この条文は空文に近い扱いになっています。
発端は、昭和33年の最高裁判決です。最高裁は、配偶者の今後の療養や生活の目処が立たない場合、相手に過酷な結果になるので、離婚の請求は許されないとしました。
夫は元農家で、広大な土地を持っていますから、土地を差押えて、競売にかければよいように思われますが、実際はそうではありません。元農家というのがネックになります。
農家は、農協からの借り入れがあり、土地には農協のための抵当権が設定されています。これは、元農家の場合も、大抵、同じで、農協が抵当権の設定を通じて元農家をガードする構造になっています。
ガードというのは、債権者が土地の差押えをして競売にかけても、抵当権で担保される農協の債権全額が優先しますから、農協が回収して、あまりが出ないと見込まれる場合は、そもそも競売自体が取り消されます(無剰余取消)。
調査すると、案の定、すべての土地にべったりと農協の抵当権が設定されていました。
病院によると、弁護士は私が二人目で、一番目の弁護士は途中でギブアップしたとのことでじた。
調査をしていくなかで、夫が新築のアパートを所有していることが分かりました。
そこで全入居者からの家賃を差押えました。
新築のアパートなので、農協の融資を受けているはずです。家賃が入らないとローンの返済が滞り、必ず農協が動くと考えました。
案の定、農協から、抵当権の一部を解除して土地を売却し、売却代金で滞納している入院費を支払うとの提案がありました。
こうして、債権は全額、回収出来ました。
しかし、精神病離婚という根っこの問題は残っています。
一方の配偶者に過酷になると言いますが、それでは他方の配偶者は我慢し続けなければならないのでしょうか。
以前に、精神病離婚の相談を受けた際、小学生のこどもたちが、お母さんが怖いと言っていたことがありました。
障害者支援の制度も拡充しています。
古い判例は見直すべきではないでしょうか。