2024/05/11 解決事例
加重障害
高齢の主婦がひき逃げ事故で高次脳機能障害となり、後遺障害は一番重い1級となりましたが、自賠責保険は、事故前から膝関節痛で通院していたから、1級の金額から14級相当5%の金額を差し引くとしました。
少し専門的な話ですが、自賠責保険では、既に障害のある人が、事故で、同一部位に障害が生じたときは、後遺障害等級に定める金額から、既にあった障害の等級に応じた金額を差し引くと定めています。これを「加重障害」と言います。
事故で後遺障害が遺ったとしても、加害者に、事故前からある被害者の障害まで負担させるのは不公平だという考え方です。
事故で生じた後遺障害が、事故前からある障害より大きいときは、差額が支払われますが、事故前からある障害の方が大きい場合、支払は0になります。
それにしても、事故で脳に深刻な障害が遺ったとき、老化現象による膝の痛みの分を差し引くというのはおかしくないでしょうか。
こうなる原因は、自賠責保険の「後遺障害等級表」(別表二)にあります。後遺障害等級表は、後遺症が1個なのか複数なのか、複数の場合はそれら後遺症相互が関係あるのかないのかを決めるための表です。
まず、後遺障害等級表は、身体を以下の10の「部位」に分けます。
眼 ア.眼球 イ.まぶた
耳 ア.内耳 イ.耳介
鼻
口
神経系統の機能または精神
頭部、顔面、頚部
胸腹部臓器(生殖器を含む)
体幹 ア.脊柱 イ.その他の体幹部
上肢 ア.上肢 イ.手指
下肢 ア.下肢 イ.足指
次に後遺障害等級表は、機能ごとに35の「系列」に分けます。
例えば、「上肢の欠損または機能障害」と「変形障害」は、部位は同じ「上肢」でも、系
列は別となります。
現在、「後遺障害等級表」(別表二)では、133個の後遺障害が定められています。
問題なのは、このなかで唯一、「神経系統の機能または精神」だけは、一つの「部位」であると同時に、ただ一つの「系列」になっていることです。
つまり、「神経系統の機能または精神」は、上から下まで一直線になっているので、神経と精神に関するものは、常に加重障害の問題が生じます。
自賠責保険が5%の減額をした理由は、「膝の痛みだって脳と同じく神経だ」という考え方なのです。
被害者の夫と相談し、加害者と裁判をし、裁判でこの問題の決着をつけることにしました。
加重障害の趣旨は、正確に言えば、もともと障害があって損害を受けている人に、事故の後遺障害で損害が生じたとしても、損害が重なり合う部分まで加害者が払う必要はないということだと思われます。つまり、損害の重複を問題にしているということです。
等級表で「神経系統の機能または精神」が「一部位」となっていても、障害による損害の性質が異なっている場合はあるはずで、その場合、損害は重複しないと言えます。
そこで、加重障害制度の趣旨と損害の性質の違いを理由に、事故による高次脳機能障害と、老化現象である膝関節痛は、「同一の部位」の障害とは言えないと主張しました。
調べたところ、さいたま地裁が平成27年3月20日に同じ趣旨の判決を出していました。相手方の弁護士は、最後まで理解できなかったようですが、裁判所はこちらの主張を認めてくれました。
等級表の「神経系統の機能または精神」には欠陥があり、事故の被害者に、重ねて損害を与
える結果になっています。改正すべきであると思います。