解決事例

2024/05/02 解決事例

小樽の港に夕日を見に行く

本人の残した何気ない一言が、裁判で重要な意味を持つことがあります。保険会社から依頼された死亡保険金請求の事案です。

札幌市内にある小さな会社の社長が、ある日の夕刻、事務員に「小樽の港に夕日を見に行く」と言って小樽に出かけ、岸壁から車ごと海に転落して亡くなりました。

この種の事案では、自殺か事故かをめぐり、工学鑑定や周辺調査が行われますが、決定的証拠がない場合もあります。

混沌としたなかで、本人の残した「小樽の港に夕日を見に行く」が、この裁判の鍵となりました。

小樽の人なら気がつきますが、小樽では、夕日は、港に落ちず、山に落ちます。

小樽の港は、石狩湾を挟んで「東」を向いているからです。

つまり、「小樽の港に夕日を見に行く」というのは明らかにおかしいのです。

その後、徐々に、自殺を裏付ける証拠が出てきて、裁判は終わりました。

死体検案をした医師は、たまたま私の同教生で、彼は「死んだんだから、払ってやれよ。」と言いました。

気持ちはよく分かります。しかし、保険はとどのつまり助け合いです。ひとりだけ得をしては保険が成り立ちません。

「小樽の港に夕日を見に行く」は、哀しくて、どこがロマンチックで、何年たっても不思議に忘れられません。

© 斉田顕彰法律事務所