解決事例

2024/09/15 解決事例

土(つち)

製造物責任(PL)の裁判の話です。

 

植物の栽培に用いる「培養土」というものがあります。

ヨーロッパで製造された肥料入り培養土を使って植物の苗を栽培していた複数の栽培者に、苗の大量枯死が発生しました。

ヨーロッパからメーカーの人間も来ましたが、問題ないとの見解です。

栽培者らは、欠陥製品であるとして、輸入会社と販売会社に、造物責任(PL)があると主張しました。

 

欠陥や、瑕疵(かし)が争点となる裁判では、苗が枯れた、家が傾いたなどと言って、いくら「現象」を訴えても裁判には勝てません。

「原因」が分からなければ、裁判所は判決が書けないからです。

「原因」を明らかにすることは、実は一番大変な作業です。

 

栽培者らのアドバイザーは某大学名誉教授でした。

名誉教授は、メーカーが培養土を製造する際に使用した土(ピートモス)には、生物の死骸など有機物が残っていた、そこに土壌の菌が入り込んで繁殖し、さらに添加した窒素肥料を栄養として取り込んだ、そのため培養土が窒素不足の状態となり、苗が枯れた。これは、「窒素飢餓」と言われるものだという見解でした。

栽培者らは、分析会社に分析を依頼し、この培養土は窒素成分が異常に少ないとの分析結果を入手しました。

確かに説明としては、筋が通っています。

しかし、販売会社の依頼を受けた農業試験場によると、窒素分は少ないけれど、大量の枯死が生ずるほどではないとの見解でした。

 

裁判所は、独自に専門家の大学教授を見つけ、その教授が、裁判の都度、遠方からインターネットで裁判に参加する方式で裁判が進みました。

裁判は、輸入したコンテナの特定、窒素の分析方法、資料採取方法、といった入り口の議論が続きました。

提訴から1年経ってから、輸入会社の弁護士が、ヨーロッパに行って、直接、メーカーに製造プロセスを確認してくると言い出しました。

その行動力に感服しました。結果的に、これが転機となりました。

 

メーカーは出荷した培養土のサンプルをすべて保管しており、栽培者らの言うようなことは絶対に起こらないとのことでした。

ただ、このとき、たまたま研究員が枯れた苗の写真を見て、これは病気であり、原因は〇〇菌だと言ったそうです。

〇〇菌は、そこいらの土壌にいるありふれた菌で、堆肥のような有機物の分解もしますが、植物の根に寄生して枯死もさせます。

沢山の分析資料の中に、枯れた苗の根の内部に、この〇〇菌が繁殖していたという報告がありました。

重要なのは、培養土の中ではなく、根の内部にいたことで、これは寄生を意味します。

栽培者らは、裁判で大量の写真を証拠として提出していたので、文献にある〇〇菌による被害写真を提出して、〇〇菌が寄生して枯れたとの主張をしました。

 

栽培者らは、グループで栽培方法の勉強会をしており、普段から互いのハウスに出入りしていました。

写真で気がついていたのですが、彼らは靴を履き替ないで、ハウスに出入りしていました。

つまり、ハウスの中に、外の「土」が常時持ち込まれていたのです。

裁判は勝訴しました。

 

この裁判の途中で、裁判長が人事異動となりました。

立ち話をしたら、「この裁判だけは最後までやりたかった。」と言っていました。

世間では、裁判は型通りで無味乾燥だと言われます、果たしてそうでしょうか。

今回のように、ただの「土」の中にも、沢山の生物が生きています。

 

© 斉田顕彰法律事務所