解決事例

2024/08/29 解決事例

靴買って下さい

破産の申立をする際の予納金の用意の話です。

 

  会社が破産の申立をする場合、裁判所に予納金をおさめなければなりません。これは裁判所が破産管財人を選任するので、その報酬分をあらかじめ確保するためです。

  ところが会社が倒産する場合、ぎりぎりまで経営を続けると、予納金の用意が出来ない場合が起きます。

 

  靴の卸販売をしている会社がありました。販売不振で、靴の製造元に多額の買掛があったので、破産しかないと考えましたが、予納金の当てがありません。

靴の卸先は、市内のデパートと靴店です。

デパートは売り場のスペースを依頼者に貸し、依頼者の従業員がデパートで販売に当たっています。市内の各デパートには、靴の在庫がありました。   

  また、靴の小売店にも在庫がありました。

そこで、デパートと小売店とを社長と一緒に回りました。破産の予納金を作らなければならないので、在庫の靴を買い取ってくれと依頼するためです。

 

破産をするための予納金を用意することは、本来、すべての債権者の利益になることです。

  しかし、どのデパートも小売店も門前払いで、早く在庫を引き揚げてくれと言います。

倒産にかかわるなというのは、商売の基本ですから、無理もありません。

社長と一緒に靴を売り歩きながら、世間の厳しさを痛感することになりました。

 

  ただ、あるデパートの役員が、部下に「買ってあげなさい。」と言ってくれました。こちらの真剣さと、この役員の度量の大きさだと思います。

  これだけでは予納金に足りないので、買い取り業者に買い取ってくれるよう頼みましたが、ここも拒否で、顧問の弁護士が反対しているとのことでした。

  そこで私から、顧問の弁護士に、絶対に迷惑を掛けないと約束してお願いしたところ、買い取ってくれることになりました。日頃の信用だと思います。

 

  倒産では、いろいろな経験をします。予納金に関しては、経営者の高校のクラス仲間がカンパして、破産予納金を作ってくれたケースもありました。

また、破産後に、取引先を謝罪して回ったら、新規に仕事をくれたというケースもありました。

「地獄に仏」と言いますが、倒産の修羅場に手を差し伸べてくれる人が現れるのは、日頃の生き方があるのではないかと思います。

 

この会社の破産では、在庫の靴が持ち逃げされそうになったり、大変なこともありましたが、なんとか無事に破産の終結に至りました。

 

  数年前、たまたま元社長とばったり会いました。年金生活とのことでしたが、一緒に靴を売って歩いた時の話しをしみじみとしました。

 

 

© 斉田顕彰法律事務所