解決事例

2024/06/13 解決事例

模範囚

保険代位の裁判の話です。

損害保険会社が、事故の損害について契約者に保険金を払うと、契約者の加害者に対する賠償請求権が保険会社に移ります。

契約者が加害者に重ねて請求して二重に利益を得ることと、加害者が保険で得をすることとを防ぐために法律で認められています。

 

北海道の不動産会社が、富山にある一戸建てを裁判所の競売で落札しましたが、所有者が明け渡さないため、裁判所に申請し明け渡しの強制執行が行われることになりました。

その強制執行の前日、この家の主である男が、家族の留守の間に、家に放火しました。

保険会社が火災保険金を支払ったことで、賠償請求権が保険会社に移り、この男に対する裁判を依頼されました。

 

男は放火罪で刑務所に服役していました。このような場合、刑務所を住所として裁判を起こします。調査したところ、福井刑務所に服役していることが分かりました。

刑務所に確認すると、男は模範囚で、いくつかの刑務所に職業訓練の助手のような形で出向いていて、今は不在だとのことでしたが、福井刑務所での服役が本来と思われたので、福井地裁に裁判を起こしました。

 

裁判の前日、京都で一泊し、翌朝、JRで福井に向かいました。

道すがら思ったことは、明け渡しの強制執行が決まったことを、どうやって家族に伏せていたのだろうか、まして、強制執行が明日になるまで、どうして家族に言わなかったのか、放火後に窓から飛び下りて怪我をしたという話しなので、もしかしたら焼身自殺を考えたのかもしれないが、家が競売になったからといって、死ぬ必要まであるだろうか、分からないことだらけです。

 

住宅ローンが払えなくなった事情は分かりませんが、おそらくその辺りから、家族には話していないのだと思います。そして、土壇場になって、放火をしたのだと思います。

人間は、冷静さを失うと、膝までの水の深さでも溺れると言います。誰かに相談すれば、こんなことにはならなかったと思いますし、そのことは模範囚となったこの男が一番よく分かっていると思います。

 

裁判官には、この男が放火し、保険会社が火災保険金を支払ったことしか分かりません。

裁判は5分で終わり、遠方から来たことを労ってくれました。

ただ、裁判はわずか5分でも、背景には、人間のドラマがあることがあります。

 

© 斉田顕彰法律事務所